2010年5月23日日曜日

トゥッティ・フルッティ/Tutti Frutti



トゥッティ・フルッティ/Tutti Frutti

 <トゥッティ・フルッティ>は、リトル・リチャードの最初のヒット曲であり、リトル・リチャードの声とスタイルに神が降臨したまぎれもなくリトル・リチャードのものだ。1955年11月にスペシャルティからリリースされた。56年にR&Bチャートで2位になるヒットになった。

 エルヴィス・プレスリーは、1956年1月31日に録音している。同年5月1日から10週間全米ナンバーワンを疾走した最初のアルバム「エルヴィス・プレスリー登場」のB面トップに収録された。アルバム「エルヴィス・プレスリー登場」はプレスが追いつかないヒットになりRCAビクターは他社工場まで借りることになった。アルバムが買えないティーンエージャーのために全曲シングルカットしてリリースした。

 ”ワッバップ・ルッマップ・ラッバン・バン

 その意味は・・・意味なんかいらない。叫びの助走。腰を使え。身体を動かせ。それしかない歌だ。東にロック、西にもロック、彼女は一番のお気に入り ♪ イントロを追い越して”サロン”にたどり着く。
そこにはもっとも人間くさい生身のなにか、危険なものがあると嗅ぎつけた面々が自由に集まってきた。サム・フィリップスのように分かっていたものいたが、パット・ブーンのように既成の考え方と同じ人もいた。そしてそれが既成の考え方をする人に受け入れられた。

 1954年、エルヴィス・プレスりーが、サンスタジオで偶然、ロックンロールを爆発させたのと同じように、リトル・リチャードも、スペシャリティのスタジオで偶然ロケットを”ワッバップ・ルッマップ・ラッバン・バン”の合図とともに発射させた。

 <トゥッティ・フルッティ>は偶然誕生した。ロックンロールはこのように意味不明の言葉に飾られたボーイ・ミーツ・ガールが大半。セクシャルなものが多いにしても、<トゥッティ・フルッティ>は際立っている。

 ロック=反体制という図式はどこから生まれたのか?

 それはエルヴィス&ロカビリーに対する当時の大人社会の反応そのものであり、それ以上のものでもない。しかしエルヴィス登場直前人気だった映画『理由なき反抗』『乱暴者』でジェームス・ディーンやマーロン・ブランドが魅せた反逆の印象が、ロックンロールにかぶせられたことも一因。

 『理由なき反抗』『乱暴者』では車が主人公の身体的特徴を代弁。ロックンロールも同じく精神性に留まらず肉体を代弁した。エルヴィスの動きは精神を動かせる肉体の美。
人は考える葦であるから考え、精神性を重んじる。しかし考えた挙げ句、精神が最後に到達するのは身体だ。最後に身体が反応し、行動が起こる。信じられるのは精神ではなく、身体によって実現される行動であり、身体なのだ。エルヴィスは確かにバラードでも魅了したが、それは身体で語ったからでないだろうか?なるほど編集盤『エルヴィス56』のジャケットのエルヴィスは裏も表も自身のサウンドに耳を傾け考え込んでいる。しかしこの場合もエルヴィスは思考が行くところまで行った後、ロックの音が全身に鳴り響くと、全身でもって表現するに至るのだ。

 身体が動く意味について、エルヴィス・プレスリーが「勝手に身体が動くんだ」と言った点について疑問を持っている。身体は動くのは疑いの余地がない。しかし動き方には疑問がある。しかしどうでもいいことだ。身体は解放を求めて動く。 ”ワッバップ・ルッマップ・ラッバン・バン!!”セックスはうってつけだ。叫びは自然なのだ。そうだ、人間は身体こそがすべてを知っているのだ。どのような身体であっても、身体こそが唯一信じられるものであり、美しいものなのだ。

 リトル・リチャードの楽曲は身体にこそ神が宿ると言わんばかりだ。意味不明な言葉のリフレインはまるで身体の尊厳を祝うかのようでもある。ジェリー・リー・ルイスと同じく自称「キング・オブ・ロックンロール」と公言した。というものの、エルヴィス・プレスリーには一目置いている。エルヴィスを非難する言葉は知る限り聞いたことはない。

 「エルヴィスがロックンロールの道を広くしてくれた」と感謝の気持ちを隠さない。なにより、エルヴィスのブルース、ゴスペルへの愛情は確かだった。そして皮膚の色の違いを自然な形で気にしていなかった。

 その一方で、<Tutti Frutti/トゥッティ・フルッティ>をビルボードでヒットさせた白人優等生パット・ブーンをはじめ白人シンガーに対する怒りを隠さない。リトル・リチャードにとってそれらは魂の抜け殻でしかなく、音楽への冒涜に聴こえたのかも知れない。にもかかわらずビルボード2位(パット・ブーン)と 17位(リトル・リチャード)の結果は、白人社会の優位以外何ものでもないと感じたのだろう。

 いまでこそ、ロックを愛する人は、チャック・ベリーを聴き、リトル・リチャードを聴く。しかし日本人のそのほとんどは、60年代の半ばになってからだ。もし、エルヴィスがいなかったら、ロックンロールはビーチ・ボーイズやビートルズにバトンタッチすることもなく終わっていただろう。当時、大半の人はロックンロールの熱病で、その灯火はすぐに消えてしまうと思っていただろう。フランク・シナトラはそう考えていて、エルヴィスを見下していた。エルヴィスでさえも、その灯火がロックから自分に燃え移ることを期待していただろう。

 でもリトル・リチャードの不満も、エルヴィス・プレスリーの心配も無用だった。歴史は
 ”ワッバップ・ルッマップ・ラッバン・バン”のバカ騒ぎに潜んでいた真実を受け止めた。


俺の可愛いベイビーは
俺の気持ちがよく分かる
たっぷり愛してくれるんだ
朝、昼、そして晩までも

*くりかえし

俺のベイビーに触れられると
まるで世界一高い山に登ったり
世界一深い海に潜ったようないい気分

*くりかえし

俺のベイビーの唇は
赤くて甘いワインのよう
彼女にロづけされるたび
ハイな気分になっちまう

*くりかえし

トゥッティ・フルッティ
Wop-bop-a-loom-bop-a-lop-bam-boom
Tutti frutti,ah rutti
Tutti frutti,ah rutti
Tutti frutti, ah rutti
Tutti frutti, ah rutti
Tutti frutti,ah rutti
Wop-bop-a-loom-bop-a-lop-bam-boom

スーって名前の彼女がいるんだ
とっても気のきくいい娘

スーって名前の彼女がいるんだ
とっても気のきくいい娘

東にロック
西にもロック
彼女は一番のお気に入り

*Tutti frutti,ah rutti
Tutti frutti,ah rutti
Tutti frutti,ah rutti
Tutti frutti,ah rutti
Tutti frutti,ah rutti
Wop-bop-a-loom-bop-a-lop-bam-boom

**デイジーって名前の彼女がいるんだ
彼女は億を狂わせる
デイジーって名前の彼女がいるんだ
彼女は億を狂わせる

***俺の愛し方をよく知っていて
彼女のしてくれることったら
そりゃもう最高さ

*2回くりかえし

**くりかえし
***くりかえし

*くりかえし

少し高い声が生々しい、エルヴィスの声が高いほどに身体が自由に動くように聴こえる。エルヴィス・ミーツ・リトル・リチャード。なんという市井の凱歌!大自然の動揺と抱擁の贈り物。リズムを漂流する胸騒ぎの大騒ぎ。初夏の夕暮れ、空の下で聴けば、どんな空気にも負けない、さらにリアルなエルヴィス・プレスリーに会える。


わずか1年半の活躍の後、リトル・リチャードは1958年に突然に引退を決意する。

「ある時世界が燃え上がり空が熱によって溶けてなくなった夢を見た。しばらくしてフィリピン行きの飛行機に乗っていると突如火を噴きはじめた。私が神に祈ると火が消えた」と語ったのは有名。1万ドルの宝石を海に沈め、アラバマの神学校で伝道師を志して信仰の道に入った。再びロック・シーンに登場したのは7年後の1965年だ。エルヴィスは「ハレム万才」に取り組んでいた。

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